栄養成長中期(V6ーV11)
栄養成長中期(V6ーV11)
この期間にトウモロコシは非常に速い節間伸長を開始します。生長点はV6ステージには地上部に移り、このため生長点を害する環境や機械的要因による損傷に対して脆弱になります(図20)。
この速い成長の結果、最初の葉(鞘葉)を含む最下部の3ー4枚の葉が茎から落ちて分解し、消失することがあります。この場合は栄養成長ステージの特定に葉数以外の方法を用います。
生育ステージを求める方法の1つはトウモロコシを掘り出し、その茎を縦に割き開く方法です。栄養成長初期には節間伸長がほとんどないため、第1節から第4節までは強く押し縮められたような状態となり、節間が目で確認できません。節間が顕著に現れるのは通常第4節と第5節の間からで、この長さはおよそ0.6㎝くらいです。そこで第5節に着いた葉を確認し、それに続く上部の葉を数えることで生育ステージが判断できます(図21)。...
栄養成長後期(V12-VT)・移行期(VT-R1)
栄養成長後期(V12ーVT)
雌穂の長さ(粒列当たりの子実数)は雄穂が抽出するほんの1ー2週間前に決まります。従って、この時期のストレスは各粒列の子実数を減少させます。しかし、最終的な子実数が決まるのは受粉を経た後になります。
図23 V12ステージのトウモロコシの切開図
移行期(VTーR1)
栄養成長から生殖成長に移る移行期(VT-R1)は子実収量に大きく影響する時期です。そして、この時期に最も上位にあるイアーシュートが優勢となります(図24)。
VT(雄穂抽出)は最後の雄穂の分枝が出現し外側に開く時期です(図26)。雄穂が完全に出現する前に絹糸が現れた場合、VTステージはR1ステージと重なります。
栄養成長が完結すると、草丈はほぼ最大に達し、茎の細胞がリグニン化を進めて茎をさらに強固にしながらトウモロコシは生殖成長(R1)に移行していきます。...
水熟期(R2)
水熟期(R2)
水熟期と定義されるR2ステージは絹糸抽出後10ー14日後を指します。子実の85%は水分で、水疱状を呈し、胚乳と内部の流動体は透明です。子実が成長して拡大するため、穂軸を囲む護穎(ごえい)は見えにくくなります(図31)。
ストレスに由来する子実の消失(abortion)はこの時期に起きると考えられます。消失は最後に受精した子実(頂部近く)から順に起きやすくなります。子実が消失するリスクは受粉後10ー14日の間が最も高くなりますが、そのリスクは完熟期まで引き続きます。
R2ステージで雌穂の長さが決まります。受精した子実の絹糸は水分を失って褐色に変わります。また褐色の絹糸の中に受精しなかった絹糸が確認できます(図32)。
図30 R2ステージの第1雌穂(苞葉と絹糸を付けたものと除いたもの)
図31...
絹糸抽出期(R1)
絹糸抽出期(R1)
R1ステージは絹糸が苞葉の外側に現れる時期を指します。花粉粒が絹糸に着地すると(受粉)、花粉管が形成され、絹糸を通じておよそ24時間で胚珠に達します。ここで受精が行われ胚珠は子実(穀粒)となります。 この時期の子実はほとんど完全に護穎(がく片)に取り囲まれており、色は白色から透明、内容物は水状です。
R1ステージは子実の発育に重要な時期で、これは最終的に収量と結びつきます。この時期と、その後2週間の間に受けるストレスは雌穂当たりの子実数を大幅に減少させる場合があります。
図27 R1ステージの第1雌穂。苞葉と絹糸を付けたものと除いたもの
図28 R1ステージでの上位の3雌穂。子実上にある点は絹糸が付着していた場所
図29 R1ステージのトウモロコシ展開図。雄穂が完全に展開する前に絹糸が抽出している
乳熟期(R3)
乳熟期(R3)
R3(乳熟期)は絹糸抽出後18ー22日頃で、子実に色が付き始める時期です。子実の色はデント品種では黄色が白色が主で、フリント品種では黄色がかったオレンジ色のバリエーションか白色になります。
この時期の子実の水分含量は約80%で、内部の流動体は澱粉(胚乳)の蓄積で乳白色を呈し、子実が粒列の間を完全に埋めるようになります。また子実を切り開くと胚と胚乳が見分けられます(図33)。ストレスによる子実の消失は、この時期でもまだ起こりえます。
図33 R3ステージの子実
図34 R3ステージの第1雌穂( R1ステージの第1雌穂。苞葉と絹糸を付けたものと除いたもの)
糊熟期(R4)
糊熟期(R4)
R4(糊熟期)ステージは絹糸抽出後24ー28日頃になります。 子実の水分は約70%、内部流体は糊状またはペースト状の粘度を呈します。子実の色はその最終的な色合いに変わり、重量は完熟時の約半分に達します。
穂軸には品種による特有の色(白色、ピンク色、浅紅色、暗赤色)が付き始めます。苞葉の色も外側から褐色に変化します(図36)。
このステージに受けるストレスから子実の消失が起こることは稀ですが、ストレスによるデンプン蓄積含量や平均子実重量の低下が起こりえます。
図35 R4ステージの子実
図36 R4ステージの第1雌穂( R1ステージの第1雌穂。苞葉と絹糸を付けたものと除いたもの)
黄熟期(R5)・ ミルクライン
黄熟期(R5)
R5(黄熟期またはデント期)ステージは絹糸抽出後35ー42日頃で、生殖成長全期間のおよそ半分くらいの時期にあたります。子実は固い澱粉の外層が中心部の柔らかい澱粉を覆います。この中心部の柔らかい澱粉から水分が抜けて収縮が起こると、子実の頂部にへこみ(デント)が生じます(図38)。
このへこみ(デント)の大きさは、遺伝的要因と生育環境の両方に影響を受けます。フリント品種の場合は、へこみは極僅かか全く生じません。これはフリント品種の子実は固い澱粉が多いので潰れないためです。
図37 R5ステージの第1雌穂(包葉と絹糸を付けたものと除いたもの)子実にへこみ(デント)が生じている
図38 R5ステージの子実
ミルクライン...
完熟期・生理的成熟期(R6)
完熟期・生理的成熟期(R6)
R6(完熟期)は絹糸抽出から60ー65日後頃になります。子実の水分は約35%、子実は生理的な成熟(完熟)に達したとみなされ、乾物重量が最大となります。
ミルクライン(硬い澱粉層)が子実の先端まで達すると、子実の先端の細胞はその統合性を失い、茶色から黒色の離層を形成します。これは一般に「ブラックレイヤー」と呼ばれています(図41)。ブラックレイヤーが形成されると、蒸発作用を除いてデンプンや水分は子実から移動できなくなります。
ブラックレイヤーの形成は雌穂の先端部から始まり基部に向かって進みます。生理的成熟期の前にトウモロコシ個体が枯死した場合でもブラックレイヤーは形成されますが、その形成には時間がかかり、おそらく収量は減少します。
このステージのストレスは収量に影響しません。
図40 R6ステージの第1雌穂(...
ドライダウン・トウモロコシ子実の標準値
ドライダウン
トウモロコシ子実が水分を失うスピードは気温、空気の流れ、相対的な湿度、子実の水分含量に強く影響されます(表3)。ドライダウンはまた雌穂の向き、栽植密度、包葉の長さや締まり具合、子実の硬さ等の品種の特性とも強く関係します。
通常、ドライダウンの初期(水分25ー30%)では1%の水分低下に17GDDs℃ を要します。水分低下のスピードは品種や環境でも違いがあります。例えば、同じ10℃の気温でも晴れた日の方が雨や曇りの日よりも水分は低下します。この違いは同じ気温でも晴れた日には放射エネルギーが高いため水分低下のプロセスがドラマティックに加速するためです。
表3 時期による温度とドライダウンレートの違い( 米国アイオワ州アメス)Source: Iowa State University Extension
トウモロコシ子実の標準値...
ハリガネムシ
ハリガネムシ
ハリガネムシと総称される幼虫は、コメツキムシ科の中の10種程度で、地域によって生息している種は 異なります。トウモロコシの発芽直後の種子や根を食害する甲虫の仲間です。
成虫は体長7 ~17mm程度。老熟幼虫は体長20~28mm程度で、円筒形で細長く、皮膚は硬く光沢のある濃赤褐色。幼虫、または成虫で越冬し、成虫は植 物の根際や土壌中に産卵します。
幼虫の生育には数年かかり、多くの種が属するクシコメツキ類では1世代2-4 年の経過を要します。越冬幼虫は地温の上昇とともに活動を開始し、土壌中で播種後の種子 や幼茎、根等に頭部を陥入して摂食するため、不発芽や、幼苗の生育の遅れ、さらには幼苗が黄変した後に枯死する等の被害が生じます。
トウモロコシの他にもジャガイモ、根菜類、ムギ類、イネ科牧草等、多くの植物を食害します。...