子実コーン取り組みの背景
山口市は他の地域と同様にコメ需要低迷と農家の高齢化で大幅な余剰水田が発生しています。これに加え山口県では小麦の過剰生産で作付け制限が始まりました。
畜産県なら余剰水田は容易に飼料作物に転換できますが、山口では周辺に粗飼料を大量に必要とする酪農家は少数で水田は余る一方でした。こんな八方塞がりの中、少ない労力で大きな面積をカバーできる子実コーンの取り組みが始まったのです。
2017年、農家有志が市役所農林政策課のバックアップを受けて子実コーンの栽培試験を始めました。周りに酪農家がいないためスイートコーン以外のトウモロコシは見たこともない手探り状態からのスタートです。当然農家の方々も、米麦以外全く経験はありませんでした。 この取り組みをするに当たって、山口市役所が市内畜産事業者にアンケート調査を行ったところ、61%の方が国産飼料用トウモロコシ使用を希望し、年間需要量は1548トンにのぼることが判明しました。地域に需要はあるのです。 仮にトウモロコシの反収を500kgとした場合、300ha以上の面積に相当することになります。農地を有効利用いて子実コーンを生産しても地域で循環して行く可能性は大きいのです。
展示事業の開始
2018年には、6生産者が国の助成事業利用し実証展示事業(3年継続)を開始しました。この間、地研修会、先進地視察をおこなうとともに今後子実コーン取り組む方々のための栽培マニュアルも整備してきました。簡単明瞭に書かれており、今まで米麦しか経験の無い方でも理解していただけるような形になっています。
播種・収穫作業の請負化
米麦しか栽培したことが無い地域で子実コーンを始めるには、最大のボトルネックはトウモロコシの播種機と専用コンバインの確保です。 参加者の方々はこのことを明確に認識していたため、2019年に「山口市子実コーン地域内循環型生産・出荷協議会」を設立し、国の助成事業を活用しコンバインとプランターを導入しております。これで個人が機械を保有しなくて基本的は播種や収穫ができるようになりました。
子実コーンの作型
山口市の基本的な作型は、1)4月播種-8月末収穫、2)7月中旬播種-11月収穫の2種類です。この二つの作型で、多くの方が農地の有効利用が可能となります。7月中旬播種を設定しているのは、1)排水の悪い水田地帯で梅雨の雨を避ける、2)5‐6月播種はアワノメイガの食害のリスクが高い、の2点の理由です。
栽培面積の推移
山口市では2017年以降少しずつ栽培面積を拡大してきました。北海道などの先進地と比べると非常に遅いペースですが2022年にには30ha,その先には80haとすることが当面の目標です。
収量性と課題
山口市で子実コーンの栽培を始めて5年が経過しました。この間、反収が900kgを超えたこともあれば、200kgを下回る事例もありました。これにはここ数年の異常な降雨と水田転換畑特有の排水性が大きく影響しています。 この地域の子実コーン圃場は目の前が海で標高が数メートル程度しかないところが多くあります。もともと水田であり、標高差が少ないため排水性は決して良好ではありません。しかし、プラウやサブソイラーをかけることで改善の余地はあると思われます。 2020年には9月に台風がこの地を襲いました。倒伏はおこさなかったものの台風の風が海水を巻き上げこれがトウモロコシに降り注ぎ塩害が発生しました。臨海部の特有な問題です。トウモロコシは枯れまではしませんでしたが、完全に生長がとまり残念ながら収穫不能となってしまいました。 リスクを回避しながら、排水性を改善してゆくことが当面の課題です。
飼料工場の建設
この協議会の構成メンバーである農業生産法人「あぐりんく」は、「農林水産みらい基金」の助成を受け2023年に飼料工場を建設することが決定しました。 この工場は、協議会から生産された子実コーンを受け入れて、乾燥、粉砕、配合飼料の製造・出荷までをおこなう計画です。 この飼料工場の建設で、山口市の子実コーン作りは栽培からエサの製造まで、すべての工程が自己完結したことになります。あとは面積拡大です。