すす紋病
すす紋病の病原菌は Exserohilum turcicum という糸状菌で、かつてはHelminthosporium turcicum と呼ばれていました(図1)。 北海道や東北の冷涼多湿条件で発生が増加し、大発生すると圃場全体が枯れ上がるほどの被害が出ることがあります。九州でも観察されることがありますが、それほど大きな被害にはいたりません。この病気は開花期以降に発生することが多く、紡錘形、長さ3~10cmの大型病斑を形成します。年次間変動や環境変動が大きいのも特徴です。全く発病しない年の翌年に大発生という事例もあります。 病原体は感染したトウモロコシの葉をはじめとする植物体の内部で菌糸体や分生胞子の形として越冬します(図2)。胞子は春から初夏にかけての環境条件が好適になった場合にトウモロコシの残渣の上で増殖し、雨水の跳ね上げや空気の流れでトウモロコシの新しい葉に付着し、最初の感染が起こります。この感染は葉の表面に水が6-18時間存在し、気温が18-27℃の時に起こります。 2次感染は感染個体から別の個体へ、感染圃場から別の圃場へ、胞子が風で長距離を移動することでも起こります。すす紋病の感染は通常は下部の葉から始まって上部の葉に移行しますが、発生が激しい年(胞子の量が多い)には感染が上から起きる場合もあります。
すす紋病の感染は、気象現象によって南の地域から胞子が運ばれてくることでも起こります。南から北に強い嵐が縦断する事が増えた最近の気象パターンは病原菌を従来よりも北の地域にまで拡大させています。 露が多い、頻繁に軽い降雨がある、湿度が高い、適度な温度がある、このような気象条件は一般に感染を助長します。病斑が 雌穂葉から上の葉まで拡がる場合や、葉の緑の部分が多く失われるような場合、収量が大きく低下します。
抵抗性品種
すす紋病の被害を抑制する栽培上の対策には抵抗性品種の選択が一番重要です。パイオニアでは種子カタログ等で抵抗性を示すスコアを公表していますので参考にして下さい。スコアは主要なすす紋レース(表1)を対象とし、病害に対して期待される品種の抵抗性パフォーマンスを示した数字です。病原菌レースは必然的に変遷が起こるため、スコアは継続的な試験結果に基づいて修正される場合もあります。品種改良時に多重遺伝子を用いた抵抗性の付与は、レースの変遷に対して長期間、より安定的に品種の抵抗性を保つことを可能にします。 品種の選択には病気への抵抗性以外にも収量性、害虫への抵抗性、熟期等の考慮すべき重要な形質があります。また発芽勢、根や茎の強さ、干ばつ耐性等も栽培上考慮すべき重要な形質です。評価の基準となるデータは、より多くの試験地と年数の試験から得られたものであるほど、より正確なパフォーマンスを示す指標となります。
前作残渣の低減
圃場にある前作トウモロコシ残渣を減らすことは、そのまま後作でのすす紋病の感染源を減らすことになります。輪作は残渣物を減らす有効な対策の一つです。また、あらゆる形態の耕起はトウモロコシ残渣と土壌との接触を促し、後作に残る残渣物の分解を進めて、その量を低減させます。家畜飼料のために茎葉部を収穫することもトウモロコシ残渣と感染源の低減に効果があります。一方、風によって他の地域から運ばれてくる胞子はコントロールすることは出来ません。
適期の播種
トウモロコシがすす紋病の進行を上回って生育する場合には、適期の播種により大きな病害ダメージを回避できる場合があります。例えば播種が最も遅れた圃場では、トウモロコシは他の圃場に比べて小さい生育ステージで感染してしまいます。この結果、病気の進行が相対的にトウモロコシの生育よりも早く進み、病害が大きくなります。しかし、病原菌のプレッシャーが非常に高い場合には、早い播種でも遅い播種でも病害が大きくなりがちです。