ワラビー萎縮症
温暖な西日本ではサイレージ用トウモロコシを年に2回収穫する「二期作栽培」は一般的な作付け体系です。実はこの「二期作栽培」という作型は1988年にパイオニアがその専用品種の販売を開始したことが栽培の始まりです。これにより、年間の単位面積当たりの乾物収量が大きく伸びました。 ところが販売を開始するとほぼ同時に、熊本県菊池市のごく一部の地域で図1のように株全体が著しく萎縮し、葉の裏の葉脈がこぶ状に隆起する症状が観察されるようになりました。激しく萎縮した株の収量は激減します。
当初はその症状から種子伝染によるウイルス病が疑われました。しかしその後の調査でフタテンチビヨコバイCicadulina bipunctataの吸汁時に植物体内に注入される物質が植物体の生長に影響して、萎縮症状が発現することが判明しました。
この症状がオーストラリアで初めて発見され、その萎縮した葉の形がワラビー(小型のカンガルー)の耳に似ているために、オーストラリアでは「ワラビー萎縮症」と呼ばれています。 オーストラリア以外ではフィリピンなどで古くから報告があります。また、中国の四川省や貴州省などでも1980年代以降に大きな被害が発生しています。 フタテンチビヨコバイは、世界的に見るとアフリカ北部からアジア・オセアニアの熱帯・亜熱帯地域 にかけて広く分布する熱帯性の半翅目昆虫です。日本では、1914年の松村松年の論文に最初の採集記録があり、熊本県近辺を北限として九州中南部から南西諸島にかけての分布記録があります。
ヨコバイの発生消長
フタテンチビヨコバイは、7月後半から気温の上昇とともに急速に密度が増え9月下旬にそのピークを迎えます。冬にはイネ科雑草上で越冬しており、注意深く観察すると4月でも少数のトウモロコシに典型的な症状が観察さ、またわずかですがこのヨコバイの成虫の捕獲も可能です。 このことから、この害虫は東南アジアから飛来してきているのではないと考えられています。 この萎縮症は、発見から10年ほどは熊本県菊池市の限定した地域の問題でしたが、2000年頃になるとと熊本県の主な二期作地帯や宮崎・鹿児島でも大きな被害が報告されるようになりました。
抵抗性品種の選抜
パイオニアでは発生当初から抵抗性に関する遺伝的変異について調査を始めました。数年後には明確な抵抗性を持つ品種の選抜に成功し、現在では二期作品種は全てこの抵抗性を持つものになっています。またこれにより以前に見られたような激しい被害をみることはなくなりましが、原因昆虫は確実に存在しています。 ある種の殺虫剤が有効であることは報告されていますが、最も効果的な対処方法は、発生の恐れがある地域では抵抗性品種を選択することです。